その鋭い独特の視点と多彩な才能で、小説だけでなく各分野で活躍するアグレッシブな寓話作家の一人である村上龍の作品をとりあげています。
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コインロッカー・ベイビーズ (上) (講談社文庫)
村上 龍
講談社 刊
発売日 1984-01
オススメ度:★★★★
熱狂の世界 2009-07-01
最初の方だけ読むと、「これは松本大洋の「鉄コン筋クリート」だ!」なんて思ったりします。兄弟にも似た二人の男の子、海、宗教といったキーワードがピタリとはまっているからです。「鉄コン」の方では、二人は成長せずにハッピーエンドを迎えますが、本作はさにあらず。ある時は華麗、ある時は醜悪、ある時は凶暴な世界に囲まれ、この二人、それにアネモネなどは激しい闘争をくりひろげます。
構成も実にメリハリがあると同時に用意周到。音楽、薬物、刑務所、航海技術などの取材もよくなされているようです。その上で、文章の熱狂というものを忘れない。本作の激しさは、石川淳の土壌に吉増剛造の文の花が咲いたというような感じがします。
こういう激越でグロテスクな表現には人の好きずきというものがあるでしょう。読みたくなければ読まなくてもいい。でも私は少なくとも面白いと思いました。もう30年近く前に発表されたのに古い感じがしないのは、作者の奮闘のせいか、作品に予言性があるからか、それとも今の日本が30年前と大して変わっていないからでしょうか。
ぐいぐいと読者を引っぱっていく上巻の圧倒的な迫力 2009-06-26
20代の時に読んだ橋本治の「桃尻娘」(高校生編)と本作には衝撃をうけました。特に本作の上下巻を読み終えたあとの3日間ぐらいは熱にうかされたような気分になったことを今でも覚えています。
これでもかと読者を村上龍の小説世界に、まるで投げ込まれリアリティを持った小説世界から、一気に読ませてしまう力がありました。それは残念ながら上巻だけで、下巻からはその迫力が失われていきます。けれど、下巻のラストで、ハシが口にするセリフにはリアリティがありました。
蜷川幸雄がRCサクセションの単行本「愛しあってるかい?」に記事が抜粋されていて、蜷川氏は、まだ20代後半の新生RCになってからの忌野清志郎にハシを演じさせたいとの文章が掲載されていました。
好きな人は好きだろう 2009-06-10
これが好きという人の気持ちは何となく分かる。
浮かんでくる映像の彩度が高く、溢れ出すエネルギーとスピードを感じる。太陽のギラギラがまぶしい感じもする。
しかし、なんかくどい。とってつけたような、鼻につくような言い回し。MEは後期の村上龍作品は読んだことないけれど、なんか若い作品なのだなというのがヒシヒシと伝わって来て、その若さから力づくの勢いで書き上げた、という感じ。しかし、この長編、構成力、世界観、センスを感じないわけにはいかない。センス。
さらに詳しい情報はコチラ≫
村上 龍
講談社 刊
発売日 1984-01
オススメ度:★★★★
熱狂の世界 2009-07-01
最初の方だけ読むと、「これは松本大洋の「鉄コン筋クリート」だ!」なんて思ったりします。兄弟にも似た二人の男の子、海、宗教といったキーワードがピタリとはまっているからです。「鉄コン」の方では、二人は成長せずにハッピーエンドを迎えますが、本作はさにあらず。ある時は華麗、ある時は醜悪、ある時は凶暴な世界に囲まれ、この二人、それにアネモネなどは激しい闘争をくりひろげます。
構成も実にメリハリがあると同時に用意周到。音楽、薬物、刑務所、航海技術などの取材もよくなされているようです。その上で、文章の熱狂というものを忘れない。本作の激しさは、石川淳の土壌に吉増剛造の文の花が咲いたというような感じがします。
こういう激越でグロテスクな表現には人の好きずきというものがあるでしょう。読みたくなければ読まなくてもいい。でも私は少なくとも面白いと思いました。もう30年近く前に発表されたのに古い感じがしないのは、作者の奮闘のせいか、作品に予言性があるからか、それとも今の日本が30年前と大して変わっていないからでしょうか。
ぐいぐいと読者を引っぱっていく上巻の圧倒的な迫力 2009-06-26
20代の時に読んだ橋本治の「桃尻娘」(高校生編)と本作には衝撃をうけました。特に本作の上下巻を読み終えたあとの3日間ぐらいは熱にうかされたような気分になったことを今でも覚えています。
これでもかと読者を村上龍の小説世界に、まるで投げ込まれリアリティを持った小説世界から、一気に読ませてしまう力がありました。それは残念ながら上巻だけで、下巻からはその迫力が失われていきます。けれど、下巻のラストで、ハシが口にするセリフにはリアリティがありました。
蜷川幸雄がRCサクセションの単行本「愛しあってるかい?」に記事が抜粋されていて、蜷川氏は、まだ20代後半の新生RCになってからの忌野清志郎にハシを演じさせたいとの文章が掲載されていました。
好きな人は好きだろう 2009-06-10
これが好きという人の気持ちは何となく分かる。
浮かんでくる映像の彩度が高く、溢れ出すエネルギーとスピードを感じる。太陽のギラギラがまぶしい感じもする。
しかし、なんかくどい。とってつけたような、鼻につくような言い回し。MEは後期の村上龍作品は読んだことないけれど、なんか若い作品なのだなというのがヒシヒシと伝わって来て、その若さから力づくの勢いで書き上げた、という感じ。しかし、この長編、構成力、世界観、センスを感じないわけにはいかない。センス。
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コインロッカー・ベイビーズ (下) (講談社文庫)
村上 龍
講談社 刊
発売日 1984-01
オススメ度:★★★★
破壊と破滅への哀切な疾走 2009-02-18
自らを放擲した社会への復讐を果たす為にキクはダチュラを求めてアネモネらと島へ渡り、自らへの先天的な違和感に葛藤したハシは錯乱する。現代版ハムレットとでも言うべき悲劇の完結編である。
方や棒高跳び選手、方や歌手として衆目を一身に受けながら、徐々にそれを喪失してゆく二人の姿は、あたかも元通りにコインロッカーへと回帰してゆくかの様な皮肉な風情を湛えている。コインロッカーより生まれし二人は、社会という巨大なコインロッカーの呪縛から脱け出すことはできなかったのであろうか?
積年の憎悪とともにダチュラを放つキクと、彷徨の末に遂に見つけた母の総てを赦すハシ。カタストロフィに満ちたラストは極めてショッキングだが、同時に、耽美さすら感じさせる。まさに、刺激と余韻こそが作家・村上龍の神髄だと言えよう。
「限りなく」で退廃を、「海の向こうで」で空虚を描いた龍。本作を敢えて形容するなら、まさに魂といったところではないだろうか。
三十年も前の作品だとは思えない色褪せぬ瑞々しさ。そして、歯の根が合わない殺伐さ。この二つに裏打ちされた壮絶なリアリティを輝かせるこの無上の一作が、これから先も村上文学の頂点であり続けて欲しいと、私は願ってやまない。
これを超えることはたぶんできない。 2007-03-01
龍さんのその後の作家としての原点です。
これをモチーフにふくらませて何作も書いていますが、
これを超えることはおそらくできない。
これと、『69』を読めば龍さんは修了です。
これを超える一冊をオイラはいつか読みたい。
心臓の音に見えるは青い海。 2007-01-28
東京というのは、
暴力的なエネルギーに満ち溢れていて
近代的なイメージの反面、
今にも崩れてしまうんじゃないかという危惧も抱かされる。
きっとそれは、
東京という場所に住んでいる人々の影響も大きいのだろうけど。
村上龍の初期作にして、
とてつもない問題的傑作。
彼が描く東京とそこに住む人々の情景は、
何とも現代的で脆くて尖ってて壊れやすい。
キクとハシの物語を軸に
美少女アネモネやその他大勢を巻き込んで
東京というとてつもない怪物にダチュラの砲弾をぶちこんでやる。
心臓の音が聞こえるかい?
僕らは<コインロッカー・ベイビーズ>だ。
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村上 龍
講談社 刊
発売日 1984-01
オススメ度:★★★★
破壊と破滅への哀切な疾走 2009-02-18
自らを放擲した社会への復讐を果たす為にキクはダチュラを求めてアネモネらと島へ渡り、自らへの先天的な違和感に葛藤したハシは錯乱する。現代版ハムレットとでも言うべき悲劇の完結編である。
方や棒高跳び選手、方や歌手として衆目を一身に受けながら、徐々にそれを喪失してゆく二人の姿は、あたかも元通りにコインロッカーへと回帰してゆくかの様な皮肉な風情を湛えている。コインロッカーより生まれし二人は、社会という巨大なコインロッカーの呪縛から脱け出すことはできなかったのであろうか?
積年の憎悪とともにダチュラを放つキクと、彷徨の末に遂に見つけた母の総てを赦すハシ。カタストロフィに満ちたラストは極めてショッキングだが、同時に、耽美さすら感じさせる。まさに、刺激と余韻こそが作家・村上龍の神髄だと言えよう。
「限りなく」で退廃を、「海の向こうで」で空虚を描いた龍。本作を敢えて形容するなら、まさに魂といったところではないだろうか。
三十年も前の作品だとは思えない色褪せぬ瑞々しさ。そして、歯の根が合わない殺伐さ。この二つに裏打ちされた壮絶なリアリティを輝かせるこの無上の一作が、これから先も村上文学の頂点であり続けて欲しいと、私は願ってやまない。
これを超えることはたぶんできない。 2007-03-01
龍さんのその後の作家としての原点です。
これをモチーフにふくらませて何作も書いていますが、
これを超えることはおそらくできない。
これと、『69』を読めば龍さんは修了です。
これを超える一冊をオイラはいつか読みたい。
心臓の音に見えるは青い海。 2007-01-28
東京というのは、
暴力的なエネルギーに満ち溢れていて
近代的なイメージの反面、
今にも崩れてしまうんじゃないかという危惧も抱かされる。
きっとそれは、
東京という場所に住んでいる人々の影響も大きいのだろうけど。
村上龍の初期作にして、
とてつもない問題的傑作。
彼が描く東京とそこに住む人々の情景は、
何とも現代的で脆くて尖ってて壊れやすい。
キクとハシの物語を軸に
美少女アネモネやその他大勢を巻き込んで
東京というとてつもない怪物にダチュラの砲弾をぶちこんでやる。
心臓の音が聞こえるかい?
僕らは<コインロッカー・ベイビーズ>だ。
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空港にて (文春文庫)
村上 龍
文藝春秋 刊
発売日 2005-05
オススメ度:★★★
感性 2009-10-11
日常的ないろいろな場面から作者らしい感性が見られました。人はちょっとしたことでも気付かないことや、人に傷つけられたり、感動したりするもの。居酒屋やコンビニ、公園なんかでもさまざまなことを発見できるのもだなと思いました。龍さんのアンテナの鋭さに驚きです。
資本主義国家ニホン 2008-09-07
コンビニ、居酒屋、カラオケ、空港、駅前、公園、パチンコ。日本。
いままで村上龍さんの本はいくつか読んだ。でも、今思うとその動機はネームバリューだった。お金なく、社会的立場もない者の僕からすると、この人は外から日本を見ているんだ、という気持ちがあったのではないかと思う。
しかし、この人(小説)はきちんと内から見ている。見れる人だったんだ。もしかしたら前に読んだ小説を理解するには自分の何かが足りないのかもしれないと思い出してきたぞ。
龍さん!この日本の腐ったシステムぶっ壊して。少しでも良いから。
人それぞれ 2008-06-07
人それぞれだよ。と言うのは楽だけど、そこで思考停止しない村上龍の想いが顕れていると思った。
空港にてが一番分かりやすかった。
色々な形で救われる人間が居る。
男にはロマンチシズムがあり
女にはリアリズムがある。
相互的に関係を高められるような関係は理想だと思える。
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村上 龍
文藝春秋 刊
発売日 2005-05
オススメ度:★★★
感性 2009-10-11
日常的ないろいろな場面から作者らしい感性が見られました。人はちょっとしたことでも気付かないことや、人に傷つけられたり、感動したりするもの。居酒屋やコンビニ、公園なんかでもさまざまなことを発見できるのもだなと思いました。龍さんのアンテナの鋭さに驚きです。
資本主義国家ニホン 2008-09-07
コンビニ、居酒屋、カラオケ、空港、駅前、公園、パチンコ。日本。
いままで村上龍さんの本はいくつか読んだ。でも、今思うとその動機はネームバリューだった。お金なく、社会的立場もない者の僕からすると、この人は外から日本を見ているんだ、という気持ちがあったのではないかと思う。
しかし、この人(小説)はきちんと内から見ている。見れる人だったんだ。もしかしたら前に読んだ小説を理解するには自分の何かが足りないのかもしれないと思い出してきたぞ。
龍さん!この日本の腐ったシステムぶっ壊して。少しでも良いから。
人それぞれ 2008-06-07
人それぞれだよ。と言うのは楽だけど、そこで思考停止しない村上龍の想いが顕れていると思った。
空港にてが一番分かりやすかった。
色々な形で救われる人間が居る。
男にはロマンチシズムがあり
女にはリアリズムがある。
相互的に関係を高められるような関係は理想だと思える。
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限りなく透明に近いブルー (講談社文庫 む 3-1)
村上 龍
講談社 刊
発売日 1978-12
オススメ度:★★★★
突き放される 2009-12-01
退廃的に日々を消化する若者たちの物語。
酒、タバコ、ドラッグ、暴力、セックス……退廃を象徴する様々な要素が登場し、主人公の目線で語られるのだけど、読者である私とその世界はどこか遠く、また主人公とその世界さえ遠いものに思えます。
暴力やセックスといったセンセーショナルなものまでどこか淡々と流れるように進んでいくその突き放され感が心地好い。他人の生活なんてそんなもんか。物語にどっぷり浸かりたい人には不向き。
限りなく日常に近い非日常 2009-11-25
ドラクエシリーズをやったことのある人は「はい」と「いいえ」以外の自分の意思表示ができないことにイライラしたり、「いや、それはそれで仕方ないことや」と従ったり、何も疑問を持たずにストーリーに乗っかったりしたことがあるかと思います。
ドラクエシリーズをやったことがない人にはそういった例を今回、僕は用意できませんけど、この小説は「我が輩は猫である」。
リュウを演じる、という意味でロールプレイング。
リュウは基本的に目です。
テレビが壊れてるんじゃない。テレビの向こう側とこっち側が壊れてるんだ。
読み手である僕らは仕方なくリュウの目線を借りるしかないんだ。
読み終えて「あーおもしろかった」ではすまなかった。
山下洋輔トリオが某大学のバリケード内で演奏している様を体育座りで没頭してる学生たちの映像が頭をよぎる。
21世紀における村上龍 2009-11-06
この小説が、何かに対しての明確なカウンターになる時代は、とうに過ぎてしまいました。
しかしながら、一周回ってこういう感性が珍重される時代になってきたのかもしれないとも思います。
村上春樹やライトノベルが売れる今、こういったビートくずれの小説が教えてくれることは多いのではないでしょうか。
何事かを成す人間は、大抵は優れたバランス感があります。A VS Bという対立軸の両方に股をかけてることができる人間こそが今の時代には必要です。
趣味を深く掘り下げやすくなって、いわゆるタコつぼ社会になってしまった現在、タコつぼから出てこないヲタクや不良には片方への理解や感性は希薄です。そういった人種には何もなせません。
「頭いい」で通ってきた未来あるクレバーな若者に、ぜひ勧めたい一冊。
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村上 龍
講談社 刊
発売日 1978-12
オススメ度:★★★★
突き放される 2009-12-01
退廃的に日々を消化する若者たちの物語。
酒、タバコ、ドラッグ、暴力、セックス……退廃を象徴する様々な要素が登場し、主人公の目線で語られるのだけど、読者である私とその世界はどこか遠く、また主人公とその世界さえ遠いものに思えます。
暴力やセックスといったセンセーショナルなものまでどこか淡々と流れるように進んでいくその突き放され感が心地好い。他人の生活なんてそんなもんか。物語にどっぷり浸かりたい人には不向き。
限りなく日常に近い非日常 2009-11-25
ドラクエシリーズをやったことのある人は「はい」と「いいえ」以外の自分の意思表示ができないことにイライラしたり、「いや、それはそれで仕方ないことや」と従ったり、何も疑問を持たずにストーリーに乗っかったりしたことがあるかと思います。
ドラクエシリーズをやったことがない人にはそういった例を今回、僕は用意できませんけど、この小説は「我が輩は猫である」。
リュウを演じる、という意味でロールプレイング。
リュウは基本的に目です。
テレビが壊れてるんじゃない。テレビの向こう側とこっち側が壊れてるんだ。
読み手である僕らは仕方なくリュウの目線を借りるしかないんだ。
読み終えて「あーおもしろかった」ではすまなかった。
山下洋輔トリオが某大学のバリケード内で演奏している様を体育座りで没頭してる学生たちの映像が頭をよぎる。
21世紀における村上龍 2009-11-06
この小説が、何かに対しての明確なカウンターになる時代は、とうに過ぎてしまいました。
しかしながら、一周回ってこういう感性が珍重される時代になってきたのかもしれないとも思います。
村上春樹やライトノベルが売れる今、こういったビートくずれの小説が教えてくれることは多いのではないでしょうか。
何事かを成す人間は、大抵は優れたバランス感があります。A VS Bという対立軸の両方に股をかけてることができる人間こそが今の時代には必要です。
趣味を深く掘り下げやすくなって、いわゆるタコつぼ社会になってしまった現在、タコつぼから出てこないヲタクや不良には片方への理解や感性は希薄です。そういった人種には何もなせません。
「頭いい」で通ってきた未来あるクレバーな若者に、ぜひ勧めたい一冊。
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五分後の世界 (幻冬舎文庫)
村上 龍
幻冬舎 刊
発売日 1997-04
オススメ度:★★★★
主人公を通して日本人の覚醒を訴える作品 2009-08-14
大胆な設定による、もうひとつの未来を描いた作品だ。
世界情勢の設定が大胆である。本書の中で紹介される日本史の教科書に、その設定が詳しく解説されているが、「もし本土決戦を行わず、沖縄を犠牲にしただけで、大日本帝国が降伏していたら、日本人は「無知」なままで、生命を尊重できないまま、何も学べなかったかも知れません。」このフレーズがすべての始まりであり、物語の原動力であることは誰も否定しないだろう。
列強による分割統治、国内で続くゲリラ戦、地下に儲けられたゲリラの国家、先端の科学技術・・・、これらのモチーフは近未来史テーマの作品で扱われているかも知れないが、本書はその世界に突然放り込まれた主人公がいかに自分の立場を受け入れて、覚醒していくかを描いていている点が大きく異なるだろう。この点では「裏・戦国自衛隊」と言えるのではないだろうか。
軍人の行動や兵器の扱い、そして戦闘や死傷者の描写は非常に克明で、映像化は難しいなと思わせるが、これを細かく書き込むことで、主人公の置かれた状況が非常にリアルになっている。
こんな「五分後」、やです。 2009-08-06
小田桐はいつのまにか、自分がもといた世界とはまるで違う「五分後の世界」にワープしてし まったことを知る。何も知らぬままその世界に放り込まれた彼は、その苛酷で劣悪な状況を、 わずかな情報と体力だけを頼りにサヴァイブしていく…
この作品はあるパラレルワールドを描いている。もしあのときああしていなければ、現在の状況 はまるで別の様相を呈していたかもしれない。そういう想像遊びというのは、僕も子どもの頃から 好きではあるが、本書のテーマとなっているのは「日本」である。日本が「あのとき」、ああしていな ければ、どうなっていたか。村上龍はそれを想像する。
ただ小説の中盤、その「あのとき」という分岐点から「五分後の世界」の歩んだ道程が、「国民 学校小学部六年教科書」という形でいっきに読者に提示されるのだが、著者のあとがきでの 語調とは裏腹に、その箇所によってこの作品の小説としての「限界」が露呈したような気がし た。あれは小説ではなくて、単なるシミュレーションだ。
それはさておき、きわめてメッセージ性の強い内容と時期(日本が「金しか出さない」と批判 を浴びた湾岸戦争期)に出版された本作を通して、村上龍はどちらの世界を支持するのか、 僕は結局よく分からなかった。
あの日、日本が降伏していなければ、ひょっとしたらこういう世界になっていたのかもしれない。
では、書いた当の彼自身は「こうならなくてよかったね」なのか「こうだったらよかったのに…」 なのか。そこんところが、よくわからない。
確かに、作中で小田桐は自分がもといた世界、つまり実在する戦後日本を吐き捨てるように批 判し、また反米や、日本の技術主義賛美に読める箇所もある。文芸評論家の斎藤美奈子も村上 がこの作品でアメリカの属国としての日本の屈辱を表現しようとしているみたいなことを書い ていた(『文壇アイドル論 』参照)。
しかし、そうなのだとしても、これを読んだ僕には、地中深くに巣ごもり、国連軍と終わりの 見えない殺戮を繰り広げる「五分後の世界」の側の日本にこそ、すこしも魅力的には感じなか ったのだが。。
と、こんなこと書いたのが蝉の音のうるさい夏の日の某日というのには、別に意味はない。
たまたまです。
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村上 龍
幻冬舎 刊
発売日 1997-04
オススメ度:★★★★
主人公を通して日本人の覚醒を訴える作品 2009-08-14
大胆な設定による、もうひとつの未来を描いた作品だ。
世界情勢の設定が大胆である。本書の中で紹介される日本史の教科書に、その設定が詳しく解説されているが、「もし本土決戦を行わず、沖縄を犠牲にしただけで、大日本帝国が降伏していたら、日本人は「無知」なままで、生命を尊重できないまま、何も学べなかったかも知れません。」このフレーズがすべての始まりであり、物語の原動力であることは誰も否定しないだろう。
列強による分割統治、国内で続くゲリラ戦、地下に儲けられたゲリラの国家、先端の科学技術・・・、これらのモチーフは近未来史テーマの作品で扱われているかも知れないが、本書はその世界に突然放り込まれた主人公がいかに自分の立場を受け入れて、覚醒していくかを描いていている点が大きく異なるだろう。この点では「裏・戦国自衛隊」と言えるのではないだろうか。
軍人の行動や兵器の扱い、そして戦闘や死傷者の描写は非常に克明で、映像化は難しいなと思わせるが、これを細かく書き込むことで、主人公の置かれた状況が非常にリアルになっている。
こんな「五分後」、やです。 2009-08-06
小田桐はいつのまにか、自分がもといた世界とはまるで違う「五分後の世界」にワープしてし まったことを知る。何も知らぬままその世界に放り込まれた彼は、その苛酷で劣悪な状況を、 わずかな情報と体力だけを頼りにサヴァイブしていく…
この作品はあるパラレルワールドを描いている。もしあのときああしていなければ、現在の状況 はまるで別の様相を呈していたかもしれない。そういう想像遊びというのは、僕も子どもの頃から 好きではあるが、本書のテーマとなっているのは「日本」である。日本が「あのとき」、ああしていな ければ、どうなっていたか。村上龍はそれを想像する。
ただ小説の中盤、その「あのとき」という分岐点から「五分後の世界」の歩んだ道程が、「国民 学校小学部六年教科書」という形でいっきに読者に提示されるのだが、著者のあとがきでの 語調とは裏腹に、その箇所によってこの作品の小説としての「限界」が露呈したような気がし た。あれは小説ではなくて、単なるシミュレーションだ。
それはさておき、きわめてメッセージ性の強い内容と時期(日本が「金しか出さない」と批判 を浴びた湾岸戦争期)に出版された本作を通して、村上龍はどちらの世界を支持するのか、 僕は結局よく分からなかった。
あの日、日本が降伏していなければ、ひょっとしたらこういう世界になっていたのかもしれない。
では、書いた当の彼自身は「こうならなくてよかったね」なのか「こうだったらよかったのに…」 なのか。そこんところが、よくわからない。
確かに、作中で小田桐は自分がもといた世界、つまり実在する戦後日本を吐き捨てるように批 判し、また反米や、日本の技術主義賛美に読める箇所もある。文芸評論家の斎藤美奈子も村上 がこの作品でアメリカの属国としての日本の屈辱を表現しようとしているみたいなことを書い ていた(『文壇アイドル論 』参照)。
しかし、そうなのだとしても、これを読んだ僕には、地中深くに巣ごもり、国連軍と終わりの 見えない殺戮を繰り広げる「五分後の世界」の側の日本にこそ、すこしも魅力的には感じなか ったのだが。。
と、こんなこと書いたのが蝉の音のうるさい夏の日の某日というのには、別に意味はない。
たまたまです。
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Ryu's Bar
プロフィール
HN:
ドヤ顔の人
性別:
男性
趣味:
読書(ビジネス書・小説)・ネットサーフィン・スノボー
自己紹介:
学生の頃から村上龍のファンで「コインロッカーベイビーズ」に衝撃を受け、「五分後の世界」「愛と幻想のファシズム」「半島を出よ」などの構築系の作品が大好きです。最近の龍さんの興味は経済にシフトしていますがものすごく勉強になってます。
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